GCOE CEDI Osaka Univ.

大阪大学グローバルCOEプログラム Center for Electronic Devices Innovation

大阪大学グローバルCOEプログラム 次世代電子デバイス教育研究開発拠点

HOME> 拠点目的・概要 > グローバルCOE研究紹介 > 工学研究科 八木研究室 奥野弘嗣 助教

生体視覚システムの視覚センサへの応用

効率的な視覚システムのヒントは生物にあり

生物は「情報処理能力」と「省エネ」という点で、コンピュータよりも効率的な視覚システムを持っています。たとえば、とても小さなバッタが危険を察知して逃げることができるのも、人が刻一刻と変化する状況を瞬時に判断して車を運転できるのも、優れた視覚システムを持っているからです。ただし、生物の視覚システムを構成する神経がコンピュータよりも速く動くわけではなく、コンピュータのスピードがGHzに対して、人の神経は早くても数百Hz程度です。しかし、実際の判断力やエネルギー効率は生物のほうが優れている。これは、情報処理のシステムが、生物とコンピュータでは根本的に異なるからです。つまり、生物の視覚システムを模倣し応用することができれば、何か面白いものができるに違いない。そんな想いで、網膜機能を応用した様々な知能視覚センサに関する研究を進めています。

奥野 准教授
奥野 弘嗣 助教
コンピューターと生体の情報処理システムの違い
リモートセンシングの概念

ヒトのように不審者を見つけ、バッタのように障害物を避ける

従来のコンピュータで視覚情報(2次元)を処理する場合、2次元情報を1次元のデジタル情報に変換したうえで逐次的に処理を進めていきます。この方法でたとえば網膜の機能(多くの情報から重要なものだけを脳に送る)を再現しようとすると、大規模なシステムが必要で消費電力も大きくなってしまいます。

一方、光を受ける神経細胞が無数の層のように存在し情報を並列・階層的に処理する“本物の網膜”では、2次元の視覚情報をそのまま2次元の情報として処理しています。神経細胞の層を電気が流れる過程で画像処理が実行される仕組みは、水がティッシュにしみ込んで広がっていくような自然なイメージ。ある層では輪郭が強調され、次の層では動きが強調され、さらに次の層では別の情報が強調されていく…。このように網膜で処理された情報が、脳に送られていくわけです。

こういった生物を模した視覚センサの研究において、私が実際に使用しているデバイスはシリコン網膜です。シリコン網膜とは“本物の網膜”を模倣してつくられた情報処理機能をもつ撮像センサです。これを用いた視覚センサの応用手法を2つご紹介します。

1つは、シリコン網膜とCCDカメラを組み合わせた「監視システム」。従来の監視システムは、CCDカメラが全体を撮影し、モニタを通じて人が不審者等を発見し追いかけていました。本システムでは、シリコン網膜が動いている部分(追従すべきターゲット)を感知し、CCDがそのターゲットを捉えて、鮮明な画像情報を送ります。自ら不審者等の位置を捉えて、ピンポイントで記録できるのが特長です。

監視システム
高速微細配線用低誘電率膜(Low-K)トレンド

2つ目は、シリコン網膜とFPGA※ボードを組み合わせた「衝突回避システム」。写真2の衝突回避システムは、バッタの視神経系を模してつくりました。我々が捕まえようと手を伸ばすとバッタはすぐに逃げますが、どうやって危険を感知しているのでしょうか。その答えは輪郭にあります。バッタは何かが迫ってくるという曖昧な情報を、接近物の輪郭が広がってくるスピードをもとに認識しています。具体的には、接近物の輪郭とバッタの神経細胞を流れる電気信号の広がりの速さを比較しているわけです。目の前に「わぁーっ」と何かが広がってくる抽象的イメージを曖昧に捕らえることで危険を察知して、ピョンと逃げるのです。実はこういった抽象的な情報処理は、コンピュータの得意分野ではありません。そこで、生体機構を模したシリコン網膜を利用してつくったのが、この衝突回避システムです。このシステムを搭載した車は、進路上の障害物に接近したときだけ停止することができるんです。

※FPGA: Field Programmable Gate Arrayの略称、プログラミングできるチップ

衝突回避システム
高速微細配線用低誘電率膜(Low-K)トレンド

生物と工学の間を、行ったり来たり

本グローバルCOEプログラムでの経験は、研究を充実させる糧として非常に役立っています。世界中の同じ分野の、同じ興味を持った、同じ世代の人たちとの国際シンポジウムでの交流は、発見やモチベーションに繋がっています。また、分野外の人に対するプレゼンテーションする機会も多く、相手に合わせたコミュニケーション力を身につけるいい勉強にもなっています。

研究者としては、まだ具体的な目標のようなものはありませんが、人間のように理解して自律的に何かをできるシステムをつくることが夢です。そのためには、日々の課題を一つずつコツコツとやっていくしかないと思っています。そして、生物の情報処理法を解明する研究を進め、一方ではその技術を用いて社会に役立つ技術をつくる。そんなふうに生物と工学の間を行ったり来たりしながら、研究を進めていきたいです。

 

父親が「新しいもの好き」で、当時珍しかったワープロを幼稚園の頃にすでに叩いていたようです。その後は、ひたすらゲームをやっていましたね。私がコンピュータを好きな原点は、少年期にあるのかもしれませんね。