GCOE CEDI Osaka Univ.

大阪大学グローバルCOEプログラム Center for Electronic Devices Innovation

大阪大学グローバルCOEプログラム 次世代電子デバイス教育研究開発拠点

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暗号キー(鍵)の偽造を見抜く、量子の眼

目的は情報通信セキュリティの確保

高度情報化社会において、情報通信セキュリティの確保は避けることのできない課題です。情報を覗き見されないためには、送信する情報そのものを暗号化したり、送信時に情報に鍵をかけたり、様々な方法が開発されています。暗号鍵(キー)によって施錠した情報を送信する場合、受信者に暗号キーを送る必要がありますが、この暗号キー自体も覗き見されて偽造される恐れがあります。本研究室では、暗号キーが送信途中に覗き見されたかどうかを、量子光学的手法で検証するシステムを開発しています。

見られただけで変化する光子

量子科学の対象となる微小な世界では、日常の世界では想像できないような現象が起こります。例えば、「粒子」と「波」双方の性質を有する光を細かく分けていく、つまり減衰させていくと、最小単位の光子というエネルギーの塊になります。この光子は見られた(観測された)だけでその状態に変化を生じるのです。わかり易くいうと、光ファイバーの中を進む光子を覗き見しただけで、光子に何らかの作用が及び、偏波状態や位相状態などに変化が生じるのです。つまり光子信号で暗号キーを送れば、途中で覗き見されていないかどうかが、一目瞭然というわけです。このような光の量子性に着目したものが量子暗号キー。その原理を図1に示します。

量子暗号キーの場合、非常に微弱な光を用いますので、光子受信デバイス(光子検出器)に高い感度が求められ、熱によるノイズを取り除くためにマイナス30〜40度程度に冷やす必要があります(図2参照)。本研究室では光子受信デバイスを試作しながら、量子暗号キーによる情報通信システムの開発に取り組んでいます。従来のシステムは、構造が非常に複雑でした。私は通信分野の出身だったこともあり、使いやすいシステムへの志向が強く、シンプルなシステムの実現を目指しています。

井上 恭 教授
井上 恭 教授
光子検出器
光子検出器
図1 電子暗号の原理
図1 電子暗号の原理
図2 量子暗号キーシステム 概念図
図2 量子暗号キーシステム 概念図

量子暗号キーの将来と量子科学の魅力

光子暗号キーの応用分野としては、まず国防情報や金融機関のデータベース等、高度なセキュリティシステムが必要な分野が第一に考えられます。実際、海外の銀行でバックアップ用のデータ送信に、試験的に量子暗号キーを使ったという話も耳にしています。

一般の利用者を対象とした通信セキュリティとしては、現状、IDやパスワードによる対策が多いわけですが、計算処理速度の高いコンピュータが出現すると、決して安全なものとはいえなくなります。いずれは一般個人を対象とした通信にも量子暗号キーが使われる時代が到来するでしょう。

このように、未来の情報セキュリティの鍵として期待される量子の世界。そこでは日常社会からは想像できない摩訶不思議な現象を目の当たりにできます。そんな不思議な現象を実用システムに使っていくところが、量子科学の一番の醍醐味であり、面白いところでしょう。

高校生の時に読んだ朝永振一郎先生の著書「光子の裁判」に感銘を受け、量子の世界に傾倒していきました。この本は、今も手元に置いています。