平成21年度 実績報告書
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教育研究プラットフォームIDER研究成果/ポストドクター・GCOE研究員広 帯 域 テ ラ ヘ ル ツ 時 間 領 域 分 光 法 に よ る 格 子 歪 み を 持 っ た チ タ ン 酸 ス ト ロ ン チ ウ ム 薄 膜 の 誘 電 特 性 の 観 察 金城 隆平 大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 斗内研究室 ア ブ ス ト ラ ク ト 有機非線形光学結晶 4 - dimethylamino - N - methyl - 4 - stilbazolium tosylate (DAST) をテラヘルツ波発 生源として用いた広帯域なテラヘルツ時間領域分光法により、格子定数の異なる基板上に作成したチタ ン酸ストロンチウム (SrTiO 3 : STO) の薄膜の誘電特性を観察した。その結果、特に MgAl 2 O 4 基板上に作成 した STO 薄膜については誘電特性に現れるソフトモードの温度依存性から 170K 付近での強誘電性の 発現を確認した。 近年になりテラヘルツ (THz) 波領域で動作する高周波デバイスの開発への期待が高まってきている。強 誘電体はそのようなデバイスの材料として有望であり、その THz 領域 における誘電特性の解明は非常に 重要である。テラヘルツ領域における物性観察の手法としては THz 時間領域分光法 (THz - TDS) が広く使 われているが、光伝導アンテナを THz 波発生源として用いた従来のシステムでは 2~3 THz までの領域し か観察することができなかった。しかし変位型強誘電体の強誘電性の発現に直接関わるソフトモードと呼 ばれるフォノンモードはそれ以上の領域に存在し、そのため誘電特性に現れるモードの全体像を観察す ることは困難であった。 我々は THz 波発生源に有機非線形光学結晶 4 - dimethylamino - N - methyl - 4 - stilbazolium tosylate (DAST) を用いた広帯域 THz - TDS により、チタン酸ストロンチウム (SrTiO 3 : STO) の誘電特性を観察した。 STO は強誘電性を示さない量子常誘電体として知られるが、格子欠陥や歪みにより強誘電性を発現する。 本研究ではパルスレーザ蒸着法 (PLD) により、格子定数の異なる 3 種類の基板 (MgAl 2 O 4 (MAO), MgO, LSAT) 上に STO 薄膜を作成し、基板との格子不整合による格子歪みが STO の誘電特性に与える影響を 広帯域 THz - TDS により観察した。その結果、 MAO と MgO 基 板上の STO 薄膜については 6.0 THz まで誘電特性を観察す ることができ、図のように複素誘電率の虚部に現れるソフトモー ドに起因するピークを明瞭に観察することができた。これは面 内の引張歪みによって強誘電性揺らぎが増大しているためで ある。また、 MAO 上の STO 薄膜については室温においてソフ トモードの低周波側へのシ フトを確認した。さらに MAO 上の STO 薄膜については室温から 65K までの誘電特性を観察した。 その結果、複素誘電率虚部に見られるソフトモードのピーク位 置と実部の 0.5 THz における温度依存性はそれぞれ負 / 正のピ ークを持つことが確認された。これは強誘電性揺らぎの変化に よって説明ができ、 MAO 上の STO 薄膜は 170 K 付近で強誘 電相転移をしていることが確認された。 図 MgAl 2 O 4 、 MgO 、 LSAT 上に作成さ れた SrTiO 3 薄膜の複素誘電率の (a) 実部 と (b) 虚部 50 100 150 200 1 2 3 4 5 6 0 200 400 600 800 (a) (b) ε' ' Frequency (THz) -400 -200 0 200 400 600 800 ε' on MgAl 2 O 4 on MgO on LSAT Wavenumber (cm -1 ) 94

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