平成21年度 実績報告書
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教育研究プラットフォームIDER研究成果/ポストドクター・GCOE研究員E U V 自 由 電 子 レ ー ザ ー を 用 い た 非 線 形 光 学 現 象 の 研 究 犬伏 雄一 大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 兒玉 研究室 ア ブ ス ト ラ ク ト フェムト秒程度の超短パルス高強度 X 線、あるいは EUV 光を物質に照射することにより生じる非線形 光学現象がこれらの波長域における新たなデバイス開発に利用できると期待されている。本研究では、 固体のスズ薄膜に対して EUV 自由電子レーザーの集光実験を実施した。透過光を観測するために蛍光 体を用い、 EUV 光を可視光に変換して計測する手法を確立した。そして、透過率計測では、入射レーザ ーのエネルギー密度が上昇に伴い、急激に透過率が上昇する非線形現象が観測された。 現在、放射光 X 線の輝度を上回る X 線自由電子レーザー( XFEL : X - ray Free Electron Laser ) の建設が各国で進められている。この高輝度な XFEL を更に集光することで、これまでにない X 線強度を実現することができ、この波長域における非線形光学現象を起こすこ とができると考え られる。本研究では、 SPring - 8 の XFEL 試験加速器からの EUV - FEL を用いて集光実験を実施し、 固体のスズ( Sn )に対する EUV - FEL の非線形透過現象の観測を行った。 EUV - FEL は、波長 51 nm 、パルス幅~ 100 fs で、 最大 パルスエネルギー 10 J 、集光スポッ トはおよそ 5 m であり、その集光エネルギー密度は 8 J/cm 2 に達した。吸収体として Sn 薄膜タ ーゲットを用いた。ターゲットはガラス( SiO 2 )基板に 50 nm の厚さの Sn を蒸着し、酸化を防 ぐために表面に 5 nm の金 ( Au )を蒸着した。透過光の計測には、 EUV 光がガラスに到達した際 に放射される可視の蛍光を光電子増倍管で計測する手法を用いた。 Sn の透過率計測に先立って、 Au/SiO 2 の 2 層ターゲットについて透過光強度の計測を行った。 このとき、蛍光の透過光のエネルギーは入射 EUV 光の強度に関わらず一定であった。この結果 から、 Au を表面保護層、 SiO 2 を蛍光体とする多層ターゲットは EUV 光の透過率計測に非常に有 効であるといえる。図 1 は 3 層ターゲット( Au/Sn/SiO 2 )を用いた場合に得られた Sn の透過率 である。 Sn の透過率は、前述の 2 層ターゲット( Au/SiO 2 )における透過光強度との比較から導 出した。入射光のエネルギー密度が低い場合は透過光が観測されなかったが、およそ 6 J/cm 2 以 上になると透過率が急激に上昇することがわかる。 EUV 光が Sn の電子を励起し、その結果 N 吸 収端が短波長側に移動したために、この 飽和吸収が生じたものと考えられる。 今後は、本研究で観測された飽和吸収 に加え、多光子過程などの非線形光学現 象に関する研究を進めるとともに、 EUV パルスの更なる短波長化のためのパルス スライサーや、そのパルス幅計測のため のオートコリレータなどへの応用を試み る。 図 1 固体スズ中の EUV 光の透過率 μμ86

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