平成21年度 実績報告書
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研究部門成果報告評価解析支援部門●原子レベルデバイス創世のための手法開発 今年度は、近年ニーズが高くなっている液中での原子間力顕微鏡観察を本格的に開始した。一定の成果を得ることができた。具体的には、これまで測定が困難であると考えられていた溶解性の結晶に関して原子分解能観察に成功した。昨年度から引き続いてい行っている超高真空環境下での実験では、走査型プローブ顕微鏡で原子分解能が可能である原子間力顕微鏡と走査型トンネル顕微鏡の同時測定に関して成果を得ることができた。本稿では液中原子間力顕微鏡の成果について述べる。評価解析支援部門大阪大学大学院工学研究科原子分子イオン制御理工学センター阿部 真之図1 飽和溶液中でのKCL(100)へき開面のAFM像。(a)面成長速度〜0.3nm/sec.(b)面成長速度〜0.005nm/sec.※AFMはいくつかの測定モードが考案されている。ここでは原子分解能測定が可能な周波数変調方式の原子間力顕微鏡(frequency modulation AFM;FM-AFM)をAFMとする。図2 非密閉型セル2. 可溶性結晶の液中環境下での原子間力顕微鏡による原子分解能観察 AFM観察では、これまでQ値の高い真空環境下でのみ高分解能像が得られていたが、近年、カンチレバーの変位検出系の改良により溶液中でも原子分解能観察が可能となっている 。大気中や真空中ではなく溶液中で結晶表面を観察する利点は、固液界面での反応を観察できる点が挙げられる。しかし、これまでは観察の容易さから固液界面での反応がほとんど起こらない難溶性結晶の観察しか報告されていない 。そこで、可溶性結晶の液中AFM観察とその応用観察について取り組んだ。 まずは溶解を防ぐ目的で飽和溶液を作成しKCl(100)へき開面の液中観察を試みたところ、結晶表面で激しく成長している像(図1(a))が得られた。この時の面成長速度は0.3nm/sec.程度であり、原子分解能を得るためには非常に精度によくコントロールされた飽和溶液を用いて溶解・成長速度を抑える必要があることが分かった。そのため、非密閉型セル(図2)を利用した溶液濃度調整法を考案しそれを液中AFM観察に用いた。 非密閉型セルに不飽和溶液を入れると結晶は溶解を始めるが、非密閉型セルであるため溶液が蒸発する。そのため、溶液濃度は次第に高まり、平衡状態を経て、成長環境へと変化する。平衡近傍環境で観察を行うことで面成長速度を0.005nm/sec.以下に抑えることに成功し、可溶性結晶の原子分解能観察に成功した(図1(b))。 この手法によって観察可能な結晶は大幅に増加し、応用観察として不純物添加による欠陥発生や結晶構造変化などを行い、原子レベルでの高品質結晶育成メカニズムの議論を行える環境が整った。そこで、以下に示すようにいくつかの可溶性結晶の観察を試みた。1. はじめに[1] 先鋭な探針先端と試料表面との間に働く原子間力を検出する「ナノ力学に基づいた原子間力顕微鏡(AFM)」1は、①絶縁体も測定できる、②探針先端と試料表面との間に働く原子間力を測定できるなどの走査型トンネル顕微鏡(STM)には無い利点が有る。我々は、「室温」で、AFMを用いてSTMでも実現していない多種類の元素で出来た「複素ナノ構造体構築」を自由自在にできる「力学に基づいたナノ工学」の創出を目指した研究を行っている。具体的には、これまで、室温環境下において、多元素系表面の個々の元素を識別する手法の確立 、埋め込まれた試料表面の特定の原子を、隣接する原子と交換し、設計通りのナノ構造体を構築するための手法の確立 、原子操作時に探針にかかる力の定量実験 、熱度ドリフトの存在する室温であっても、AFM探針をピコメートルのオーダーで位置決めできる技術の開発 、フォースマッピングによる原子間力顕微鏡の画像化機構の実験的実証 、原子操作の確率実験 、フォースマッピングを用いた原子識別方法の提案とZ変調方式によるAFM凹凸像と原子識別像の同時測定の考案 、などの成果をあげてきた。本年度は、これらの手法をさらに進め、液中環境における原子間力顕微鏡の高分解能観察などを行った。以下に、これらの概要を示す。[1][2,3][4][9][5,6][7][8][10][10,11]50

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