平成21年度 実績報告書
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研究部門成果報告フォトニックデバイス部門フォトニックデバイス部門大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻近藤 正彦●次世代レーザデバイスの開発 GaInNAsは、そのバンドギャップと格子定数の可変性から、GaAs基板上に成長可能な安価で高性能な次世代長波長半導体レーザ基礎材料として期待されている。 プラズマ支援分子線エピタキシー(MBE) 法が多くその成長に用いられるが、 高品質結晶の成長には未だ問題がある。その中の一つとして、Al セルを装備したMBE では意図しないAl の混入が発生し、その結果、結晶品質やそれに伴うレーザ特性の劣化が発生することが報告されている。本報告では、その混入および伴って発生する結晶劣化の原因を研究したので紹介する。1.はじめに 光ファイバー通信に使われている半導体レーザは、10G(ギガ)bps程度の速度までしか動作しない。幹線系では、発光波長の異なるレーザを複数使用して超大容量の通信を実現しているが、その技術はとても高価で私たちのパソコンで用いるLAN(ラン)系には使用できない。ムーアの法則によると、RAM(メモリー容量)が大きくなるとCPU(データ処理装置)も速くなり、それに応じて通信速度も速くなる。しかし、現時点では技術的な壁にぶつかっており、実質的に2,000年の頃とあまり変わっていない。このような背景のもと、我々は次世代の超高速インターネットのための技術革新を目指し、GaInNAsとフォトニック結晶を組み合わせた超高速レーザデバイスの研究を行っている。以下、GaInNAs結晶の高品質化について紹介する。2.研究背景 GaInNAsは、そのバンドギャップと格子定数の可変性から、GaAs基板上に成長可能な安価で高性能な次世代長波長半導体レーザ基礎材料として期待されている。プラズマ支援分子線エピタキシー(MBE) 法が多くその成長に用いられるが、 高品質結晶の成長には未だ問題が多い。その中の一つとして、Al セルを装備したMBE では意図しないAl の混入が発生し、その結果、結晶品質やそれに伴うレーザ特性の劣化が発生することが報告されている。それを避けるための手段として、希釈窒化物の成長を行うMBEチャンバーにAlを装着しないことで良好なレーザ特性を得た例は幾つか報告されるものの、その混入および伴って発生する結晶劣化の原因は未だ把握されておらず、その解明が求められている。 本研究では、2次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、GaNAs成長層に含まれるN,Al,CおよびOの濃度分布を詳細に検討して、それらに対してプラズマセルの操作が与える影響について議論を行った。そして、特に希釈窒化物MBE 成長時に発生するAl 混入の起因について検討した。3.実験と考察 窒素を導入して成長を行うと、Alセルから放出される分子線量に比例した量のAlが、結晶に取り込まれた。詳細に検討を行ったところ、結晶に混入するAl濃度nAlは、Al蒸気圧PAlと、窒素分圧PNに依存し、nAl∝PAl PNの 関係にあることがわかった 。 以上の結果から、考えうるAl混入のメカニズムについて、粒子の散乱を考えたモデルによる検討を行った。モデル化にあたり、MBEのセルおよび基板の空間配位について、図1のように定義した。そして、以下の状況を仮定し、単純化したモデルを構築した。(i)AlとN2分子が衝突する。(ii)散乱したそれら分子が、ある確率で基板に向かう。ここでは衝突の状況を簡単化するため、それぞれの分子は球状・等方的に散乱すると考える。(iii)再度分子が衝突する多重散乱の影響は考えず、単散乱場であるとする。これらを仮定すると、衝突速度R、および、基板への到達フラックスFの計算を解析的に行うことができる。計算について詳しくは、成果[1]中に示した。 ここでは計算結果を、図2および図3に示す。 図2より、セルのシャッターが開いている場合、AlとN2の分子間の衝突は、セル近傍、および、成長基板周辺で多く発生していることがわかった。また、散乱による不純物混入が発生する場合、これら[1]38

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