平成21年度 実績報告書
36/156

研究部門成果報告フォトニックデバイス部門1. はじめに 現在広く用いられている暗号システムの安全性は、暗号化されたデータを解読するのに膨大な計算量を要し実質的には不可能、であることにより保証されている。しかしながらこれは、解読困難というだけで原理的に安全というわけではない。これに対し、バーナム秘密鍵方式と呼ばれる暗号方式は絶対に安全であることが証明されている。ただしこの方式では、同じ秘密鍵を送受信者があらかじめ共有する必要がある。そこで、バーナム暗号通信のための秘密鍵を光の量子的性質を利用して安全に供給しようというのが量子暗号または量子鍵配送(QKD)である。 本事業推進担当者は、この量子暗号に関し、差動位相シフト(DPS)QKDと呼ばれる独自のプロトコルを提案し、その研究開発を進めている.本方式は、従来方式に比べ、構成が簡便、秘密鍵供給効率が高い、光子数分岐攻撃と呼ばれる盗聴法に強い、などの特徴を有している。以下、これに関し本年度行った研究項目を紹介する。2. 光前置増幅器を用いる巨視的DPS-QKD 量子暗号では、通常1光子レベル以下の超微弱な光が送受信される。そのため受信端では、単一光子検出器あるいは微弱光ホモダイン検出器が用いられる。しかしながら、これらの受信器には受信性能や実装面での制約が大きい。そこで、より実際的なフォトニックデバイス部門大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻井上 恭●量子暗号システムの研究 量子暗号とは、量子力学の原理を利用して究極的に安全な暗号通信を実現する技術である。より具体的には、離れた2者に暗号通信のための秘密鍵を供給するシステムであり、量子力学の「不確定原理」あるいは「量子状態の複製不可の定理」により鍵の安全性を保証する。秘密鍵を供給するシステムであるので量子鍵配送(Quantum Key Distribution:QKD)とも呼ばれる。本研究室では、独自に考案した差動位相シフト(DPS)QKDと呼ばれる量子鍵配送方式をベースに、改良プロトコルの提案・システム性能評価、あるいはその周辺技術の研究を行っている。この研究テーマに関して、2009年度は、(1)光前置増幅器を用いる巨視的DPS-QKD方式、(2)DPS-QKDに対する連続クリック攻撃の検知方法、(3)量子チャンネル/古典チャンネル波長多重系におけるラマン散乱光の影響の定量化、などの項目について研究を行った。量子暗号方式として、比較的パワーの大きいコヒーレント光を送信し通常の光検出器で受信する量子暗号方式について検討した。鍵の安全性確保にはコヒーレント光の量子雑音を利用する。これに関しては、基本方式は以前に提案済みであったが、今年度はより実用に近い光前置増幅受信器を用いた場合のシステム性能(秘密鍵生成レート/伝送距離)を検討した。想定される各種盗聴法について検討し、それぞれについてのシステム性能をシミュレートしたところ、数10kmの鍵配送が可能であることが示された。本方式は装置構成が従来光通信と同じであることが特徴的であり、実際的であるといえる。3. DPS-QKDへの連続クリック攻撃検知法 従来のDPS-QKD方式に対しては、連続クリック攻撃と呼ばれる盗聴法が最も強力であり、これにより鍵配送距離が制限されることが知られていた。これへの対抗策として、共光子検出率モニターによる盗聴検知法を考案した。正常時のDPS-QKDシステムでは連続パルス列が送受信されるのであるが、連続クリック攻撃を受けると、ひとかたまりのパルス群が間欠的に受信されることになる。そこで、一定時間間隔の複数時間スロットで共に光子が検出される頻度をモニターすることにより、盗聴を検知する。従来の量子暗号ではビット誤り率から盗聴を検知するのが常套手段であったところを、光子検出率を利用する点が特徴的である。実際の32

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です