平成21年度 実績報告書
35/156

2. 高エネルギー密度高圧物質創成 物質を加圧して最外殻電子が非局在化すると、常温常圧で絶縁体の物質においても金属化が促される。衝撃波を用いたパルス圧縮法では、鋭い立ち上がりで加圧が行われ、且つその後圧力・温度の急激な減衰を伴うので、物質高圧相がしばしば凍結される。高強度レーザーを用いた衝撃圧縮法では、従来法では実現できないさらに高い圧力を生成できるだけでなく、ps-fsの極めて急峻な特殊パルス反応場が形成され、これ迄検討され得なかった極超高圧相を凍結できる可能性が見いだされている。2-2. 先進その場計測;炭化水素化合物の金属相転移、超高密度炭素からのX線散乱など レーザーによる衝撃圧縮は短時間の動的圧縮であり、極超高圧状態はナノ秒の瞬間的にでしか実現されない。そこで、極超高圧状態が実現されている間に状態を計測し、計測したデータをもとに物質状態(状態方程式など)を推定する必要が有る。このような診断技術によって、例えば状態方程式などを明らかにすることができれば、どのような圧縮プロセスによれば未知の物質状態に到達させ得るのかなどを予測可能となる。ここでは、マルチチャンネル速度干渉計(VISAR)と放射輝度温度計(SOP)を組み合わせた高速計測システムによって、レーザー衝撃圧縮された炭化水素化合物の導電性流体相転移を観測することに成功した 。また同様の実験方法によっ2-1. 低エントロピー圧縮 物質の初期圧力・密度を増加させてレーザー駆動の圧力パルスを入射させると、変化させない場合に比べて低エントロピー状態の(温度が低い)超高圧物質相を探索することができる。本研究室では、従来よりも2-3倍高い静水圧力を生成する予備圧縮セルを開発し 、このセルにレーザー衝撃波を駆動するハイブリッド法の有効性を実証した。 ハイブリッド法は、気体や液体など圧縮しやすい物質に対して非常に有効であるが、常温常圧で固体の物質には適用できない。そこで、等エントロピー的に物質を極超高圧まで加圧する方法論の確立を行った。レーザー等エントロピー圧縮法によれば、通常の動的圧縮曲線とは全く異なる極めて低い温度領域において、状態方程式、動的弾性・塑性、相転移など、これまで実現不可能であった新しい物質状態を調べることができる。緩やかな密度・速度の勾配を持った“レーザープラズマローダー”を試料に衝突させる等エントロピー的圧縮法によって、圧力標準物質であるプラチナと金の等エントロピー圧縮に成功した 。て、液体水素の液体金属相転移を観測し、同位体効果が状態方程式データに及ぼす影響を世界で始めて示した 。 新しい診断技術として、高輝度パルスX線をプローブした計測法に対する期待が高まっている。例えば、高密度の物質中の電子によって散乱されたX線のスペクトルを計測し解析することで、電子温度、電子密度、電離度を診断することができる。ここでは、X線トムソン散乱計測法の有用性を検証するために、高密度ダイヤモンドからのX線散乱計測実験を行った。低エネルギー側に非弾性散乱に起因するピークを確認され、レーザー衝撃圧縮下のダイヤモンドにおいて自由電子が生成されていることが示唆されている 。また、レーザープラズマデバイス光源を用いた吸収ラディオグラフィによる超高圧鉄のレントゲン写真 (図3)や、銅の高速X線回折 、炭素フォーム材料のプロトンイメージング(図3) などにも成功している。将来的には、これらの先進プローブを統合して、多角的、多スケール、高精度の計測と新物質探索を実現する唯一無二の実験研究を展開する。研究部門成果報告フォトニックデバイス部門図3. 鉄中を伝搬する衝撃波のパルス硬X線ラディオグラフ研究成果[1] Y. Inubushi et al., Rev. Sci. Instrum. (in press). [2] T. Kimura, N. Ozaki, T. Okuchi et al., Phys. Plasmas 17, 054502 (2010). [3] K. Miyanishi, N. Ozaki, E. Brambrink et al., J. Physics 215, 012199 (2010). [4] N. Ozaki, T. Sano, M. Ikoma et al., Phys. Plasmas 15, 060701 (2009). [5] T. Sano, N. Ozaki, S. Shigemori et al., sumitted to Phys. Rev. Lett. (2009). [6] T. Jitsui et al., FRN-JPN Workshop on High Energy Density Science, Paris, 2010 (invited). [7] E. Brambrink et al., Phys. Plasmas 16, 033101 (2009). [8] E. Brambrink, Physical Review E 80, 056407 (2009). [9] B. Loupius et al., Laser and Particle Beams 27, 601 (2009). [10] W.J. Murphy et al., J. Phys. 22, 065404 (2010).[11] A. Ravasio et al., submitted to Phys. Rev. E. (2010). [3][4][6][5][7][8][9][10]31

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です