平成21年度 実績報告書
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研究部門成果報告センシングデバイス部門センシングデバイス部門大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻奥野 弘嗣●アナログ・ディジタル混在型知能視覚システムの開発と応用 生体視覚神経系の効率的な情報処理に学ぶことにより、小型・低消費電力でありながら知能的な処理を実時間で行える視覚システムの開発を行った。本システムは、逐次的演算を行う従来のディジタル画像処理システムとは根本的に異なり、並列・階層的な情報処理に適したアーキテクチャを利用している。所望のアーキテクチャは、アナログ回路による瞬時の並列演算が行えるシリコン網膜と、並列なディジタル演算回路をプログラムできるFPGAを組み合わせることにより実現した。本システムの小型・低消費電力(1W以下)で実時間処理が行えるという特長を生かし、以下の研究を行った。①画像の拡大・縮小・回転・輝度変化にロバストな、物体認識のための実時間視覚特徴量抽出、②車両ロボットを用いた、衝突回避やレーン追跡といった実時間視覚制御ナビゲーション、③人工視覚システム構築を目的とした、大脳皮質視覚野を刺激した際に予測される光覚の実時間シミュレーションシステム、等である。図11. アナログ・ディジタル混在型アーキテクチャ 本研究で構築した知能視覚システムの概略を図1に示す。このシステムは、主にシリコン網膜とFPGA(field-programmable gate array)によって構成されている。 用いたシリコン網膜は、当研究グループによって開発されたものであり、APS (active pixel sensor)、二層の抵抗回路網、作動アンプからなる128×128画素のCMOSイメージセンサである。隣接画素同士を接続する抵抗回路網によって、従来のディジタル画像処理システムが不得手とする空間フィルタ処理を瞬時に実行することが出来る。また、FPGAでは、シリコン網膜から得られる複数の空間フィルタ済み画像を用いて、画像の特徴情報を並列的に効率よく抽出し、より高次の処理までを行う。FPGAでは、任意のディジタル回路を構成できるため、システムの要件に応じて柔軟にカスタマイズできる。高速・低消費2. 物体認識のための視覚特徴量抽出 画像処理を利用した物体認識は、ロボットビジョンにおいて必要とされる機能の一つである。特定物体(人物や標識等)を認識する際、画像中から特徴点を抽出し、その特徴量を記述することは有効な手段であり、様々な試みがなされている。認識の対象となる物体は、画像中で大きさ・角度・明るさ等が変化するため、特徴点や特徴量はこれらの変化に対してロバストであることが求められる。SIFT (scale-invariant feature transform) 特徴量は、大きさ・角度・明るさの変化にロバストな特徴量であり、画像認識を目的とした研究での利用が広まっている。しかしながら、この特徴量の抽出には、従来の逐次的ディジタル画像処理が不得手とする空間フィルタリング処理が多数含まれているため、ソフトウェアを用いての実時間演算は困難であった。 当研究グループでは、空間フィルタリングを瞬時に実行する抵抗回路網と、並列演算回路をカスタマイズできるFPGAを活用することにより、実時間でSIFT特徴量の抽出や特徴点のマッチングが行える視覚システムの開発を行った。また、本システムで記述された特徴量をもとに、サイズの異なる図形間の対応点探索を行うことにより、本システムが物体の拡大縮小にロバストな物体認識システムとして有効であることを確認した(図2)。電力というアナログ回路の利点と、容易にプログラムができ汎用性が高いというディジタル回路の利点を生かし、後述する知能視覚システムを開発した。28

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