平成21年度 実績報告書
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研究部門成果報告センシングデバイス部門図3 (a)STSスペクトル、(b)Tight Binding計算の結果、(c)第一原理計算の結果保護膜として働き、外気分子からSWNTへの非浸襲性が付与され、SWNTへの欠陥導入が抑制されることを示唆している。このように、金属酸化膜修飾により、SWNTセンサの安定性が著しく向上し、同時に、センサの感度が向上することを見出した。一般に、センサに保護膜を被膜すると感度が低下するとされているが、本研究では、SWNTの金属酸化膜修飾によって感度が逆に向上しており、興味深い現象と言える。この感度向上は、被膜表面の酸素欠損サイトでNO 分子の選択吸着が起こり、その際の電荷移動量が大きいため、化学ゲート効果が促進されることによるものと考えられるが、その微視的メカニズムについては明らかではなく、今後の解明が待たれる。2. 単層カーボンナノチューブの状態密度の高精度計測法の開発 単層カーボンナノチューブ(SWNT)の物性評価では、SWNTが環境による影響を受けやすく、SWNT本来の物性を得ることが難しいという問題がある。代表的な状態密度計測法である走査トンネル分光(STS)の場合、SWNTから基板への電荷移動など、基板との相互作用が環境効果として現れ、SWNT本来の状態密度を計測する妨げとなっている。そこで、本研究では、環境効果を排除してSWNT本来の状態密度を計測する手法として、金属探針先端にSWNTを成長させ、金属基板を試料として探針側のSWNTのSTSスペクトルを計測する手法を提案し、van Hove特異性に由来する明瞭な状態密度ピークを捉えることに成功した。 Pt/Ir 探針先端にSWNTを熱CVD成長させ、複数のSWNT探針を作製し、STS測定をおこなった。その一例を図3(a) に示す。鋭い状態密度ピークがフェルミレベルに対して対称に現れており、SWNTのvan Hove特異性を如実に示している。Tight Binding (TB)計算による解析の結果(図3(b))、(18,6) のカイラリティをもつ金属SWNTが実験結果と最もよく合うことがわかった。 1 eVおよび1.5 eV付近に、計算では予測されないピークが観察されているが、これは、SWNTの曲率に起因したπ/σ軌道の混成およびπ*/σ*軌道の混成を考慮していないことによるものである。そこで,軌道混成の効果を考慮した第一原理計算(LDA)の結果と比較した(図3(c))。LDA計算の結果では、ピークの位置をより良く再現していることがわかる。以上の結果は、SWNTを基板ではなく、探針側に置くことで、基板からの電荷移動などの環境による影響を排除して測定したことにより実現されたものである。参考文献[1]Wonwiriyapan et al.: “Highly Stable and Sensitive Gas Sensor Based on Single-Walled Carbon Nanotubes Protected by Metal-Oxide Coating Layer”, Appl. Phys. Express 2, 095008 (2009).[2]Inoue et al.: “Density of States of Single-WalledCarbon Nanotubes Grown on Metal Tip Apex”,Appl. Phys. Express 2, 035005 (2009).2[2]19

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