平成21年度 実績報告書
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多くの優れた物性を有するワイドギャップ半導体のダイヤモンドについて、本年度は、マイクロ波プラズマCVD法を用いて、(001)微斜面基板上のホモエピCVD成長を行うことにより、ダイヤモンド膜自体の結晶品質を向上させた。特に、高品質CVD自立膜の作製プロセス条件のうち、最も重要な条件である成長温度の適正化を行った。更に、オフ角5度の(001)微斜面基板におけるホウ素ドープ層の作製プロセス、特に合成温度を適正化し、これまで問題となっていた高ドープ濃度化に伴う機能性の低下を大幅に抑制できる新たなキャリア制御方法を見出した。一方、デバイス関連では、ホウ素ドープ層を適正に挿入することにより、低品質高圧合成基板へのキャリア拡散が効果的に抑制できることを実証するとともに、CVDダイヤモンド自立膜を用いて光子検出器を試作し、ホウ素ドープ層の挿入により低電圧検出特性が格段に改善されることを明らかにした。研究部門成果報告パワーデバイス部門パワーデバイス部門大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻伊藤 利道●ワイドギャップ半導体デバイスの開発 ― CVDダイヤモンドの高品質化と検出器への応用 ―1. はじめに 広いバンドギャップ(5.5eV)を有するダイヤモンドは、物質中で最大の絶縁破壊電界、常温近傍での最大の熱伝導率、化学的に安定で最大の電気化学電位窓など、多くの優れた物性を有するため、パワーエレクトロニクス分野をはじめとして、複数の分野で応用可能な材料と考えられている。しかしこれまで、結晶品質の良い大面積試料が容易に得られないこと、p-n制御のための有効なアクセプター(ホウ素)やドナー(燐)の準位が深く、特に、n型試料の場合は作製も容易でないことなど、パワーエレクトロニクス分野への応用を実現するには多くの開発課題がある。他方、結合力が非常に強いダイヤモンドは、最大の放射線耐性を有している半導体材料でもあるため、放射線検出器としての応用や、高温・高放射線照射環境下でも機能する電子デバイスの実現が期待されている。我々はこれらの期待に応えるため、マイクロ波プラズマ気相合成(MWPCVD)法を用いたダイヤモンドの高品質化及び成膜速度の高速化を両立できる作製プロセスの開発を行うとともに、ダイヤモンドデバイスとして最も早期に実用化が期待される放射線検出器の高性能化について基礎的研究を行っている 。2. CVDダイヤモンドの高品質化2.1. CVDプロセス改善による高品質化 標記の研究テーマに関して、得られた研究成果の主なものは以下の通りである。ダイヤモンド(001)面から微小角傾いた微斜面基板の有効性を更に進展させるため 、オフ角5度の試料について、その作製プロセス条件に検討を加え、アンドープ及びホウ素ドープ(p型)試料における成長温度を適正化した。また、厚い高品質CVD膜を形成した後、使用した低品質高圧合成(HPHT)Ib基板から分離して得られるCVDダイヤモンド自立膜形成プロセスについても微斜面基板の有効性を明らかにした 。一方、合成が最も困難なn型試料について 、燐ドープCVDダイヤモンドの合成プロセスを検討した結果、結晶品質の良さを測る指標である励起子発光が観測できる試料は、オフ角5度の(001)微斜面HPHT Ib基板上では合成されにくく、むしろオフ角のないHPHT Ib(001)基板の方が適していることが判明した。これは、成長中に出現する成長丘の生成と深く関係していた。2.2. 構造制御による高品質化 ドープホウ素濃度の増大とともに生じる正孔移動度の低下を抑制するため、現状では高品質化が唯一期待できるホモエピ成長プロセスを用いた上でキャリア供給領域とキャリア走行領域を分割する方法の有効性を検討した結果、以下に示す作製プロセスの有効性が明らかになった。まず、アンドープバッファ層をHPHT Ib(001)基板上に成長した後、薄い高濃度ホウ素ドープ試料を形成した。この高濃度ドープ層は常温以下ではキャリア(正孔)は縮退してお[1-4][5-9][2,4][10][3]14

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