平成19年度実績報告書
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2.1 パワーデバイス部門 1970年代後半のGTOおよびパワートランジスタの発展を契機にパワー半導体デバイスの開発が活発となり,IGBTを中心としてパワーMOSFETやGCT(Gate Commutated Turn-off Thyristor)の高性能化が進んだ.1957年のサイリスタの発表から50年を経過した昨今,電力変換器の主回路技術およびDSPやFPGAを主体としたディジタル制御技術の発展とあいまってシリコン素子を用いた半導体電力変換技術は成熟期を迎えている.これらのパワー半導体デバイスについてはより一層の低損失化および高信頼動作を目指して半導体チップそのものの改良だけでなく高温動作化,外部との接続部,および実装についても開発が進められている.しかしながらパワーエレクトロニクスの次の革新的な発展のためには新しいパワー半導体素子の開発が待たれている。半導体電力変換技術が家電製品から産業,交通,電力の広い範囲で利用されている中でパワー半導体デバイスの低損失化は省エネルギーおよび低環境負荷社会実現のために重要なテーマである.その中でSiCデバイスを中心としてワイドバンドギャップ材料を用いた素子の研究開発が各方面で進められているが,本GCOEでは大阪大学で開発されているGaNや将来の材料として将来の期待が大きいダイヤモンドを用いたパワーデバイス,ならびにそれらの応用分野の開拓,主回路および制御技術の開発に焦点を当てて研究を進めている. 福井大学の葛原正明教授の下では,AlGaN/GaNやAlInN/GaNなどのヘテロ接合を用いた電界効果トランジスタの設計・試作・評価を行っている.クリーンルームでの実験を通して,数100Vの高耐圧特性や数10ギガヘルツの高周波特性をもつ電子デバイスの実証をめざしている.また,新しい半導体や新構造をもつ電子デバイスについて,その直流特性や過渡特性などの特性予測をコンピュータシミュレーション技術を用いて行っており,10kVを超える高耐圧や1THzを超える超高周波特性の実現可能性を理論面から検討している. 大阪大学の伊藤利道教授の下では,半導体材料中で最大の電気的絶縁破壊耐性や常温で最大の熱伝導度など,多くの優れた物性を有しているダイヤモンドに関する研究を推進している.ダイヤモンド電子デバイスの実現に寄与するため,本年度は,p型及びn型ダイヤモンドの作製プロセスの改善を行なうとともに,実用化が最も早期に期待できる紫外線・軟X線検出器を試作した.ホウ素ドープp型試料のホモエピタキシャル成長において,基板のオフ角の増大とともに成長速度やドーピング効率が向上すること,リンドープn型試料の作製において,従来不適切であると考えられていた石英管型マイクロ波プラズマCVD装置を用いて,リンドープn型(001)試料の作製に初めて成功したなどが新しい成果である. 大阪大学の伊瀬敏史教授の下では,今後のパワーデバイスの応用分野として発展が期待されている新エネルギー発電およびそのような分散電源を多数含む電気エネルギー流通システムに関して,実験的に研究を推進している.特に,新エネルギー発電は直流で出力されることが多いこと,および近年のインバータ応用機器の利用の拡大があることから直流によるシステムに着目し,DCマイクログリッドと呼ばれるシステムの実験装置を製作し,ビル内やマンション内,住宅地域,離島や僻地などにおける新しい電気エネルギー流通システムを目指した研究が進められている.また,交流から交流への周波数および相数の直接変換を行うマトリックスコンバータの研究によりエンジンを用いたコージェネレーションや風力発電の高効率化に寄与できる系統連系技術,電気二重層キャパシタや超伝導コイルを用いた電力貯蔵装置のための電力変換装置およびその制御技術などの研究を行っている. なお,当部門においては平成19年度は合計3回のセミナーを開催し教育にも力を入れている.2 研究部門成果報告 9

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