平成19年度実績報告書
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2.2.6 生体センシング 小山内実電気電子情報工学専攻・講師2.2.6.1 はじめに 医学・生物学の研究が進み,生体の様々な事象が解明されてきている.しかしこれまでの生物学は,主に時空間的に静止した静的情報からデータを得ていた.しかしながら生体では,タンパク質や種々の機能物質が動的に変化しており,このような情報を生きた生体から的確に捉えることが医学・生物学の次のステップであると考えられる.そこで我々は,生体,特に脳における神経細胞活動をイメージングによりセンシングし,神経活動の時空間特性の解析を行った.細胞内にカルシウム感受性蛍光色素を負荷する必要があるが,スライス標本のように厚みのある組織に,細胞の状態を保ちつつ,均一に効率よく色素を導入することは難しく,これまで成功している研究者の数は多くない.我々は,独自の方法を考案し,細胞の状態を維持したまま効率よく色素を負荷することを可能にした.これらのシステムと方法を用いることにより,高速イメージングだけでなく,これまでほとんど報告の無い長時間 (これまでの実績最大 4 時間) のイメージングも可能になった.2.2.6.3 大脳皮質視覚野における情報伝播の時空間特性 大脳皮質視覚野は,古くから研究が行われている脳の領野の一つである.視覚野に関する研究は脳内での視覚情報処理機構を解明するための基礎研究だけでなく,現在その実現が期待されている視覚障害者の視覚を補綴するための視覚代行システムの開発のために重要な位置づけにある. この視覚野において,我々は,視覚野スライス標本に対してカルシウムイメージング法を適用し,刺激に対する視覚野信号伝播の時空間特性の計測・解析を行った.図 2.2.6.2 に大脳皮質視覚野第 4 層に電流刺激を与えた際の信号伝播の時空間変化を示す.前述のイメージングシステムを確立したこと--センシングデバイス部門 2.2.6.2 カルシウムイメージングシステムの確立 従来の神経活動の計測にはガラス管微小電極を用いた電気生理学的な手法が用いられてきた.これらの方法は,応答の時間特性を解析するには最適であるが,細胞応答の空間特性に関する解析には適さない.こうした空間特性の計測には,光学的な手法による画像計測が効果的である.細胞内カルシウム濃度 ([Ca2+]i) は,活動電位により上昇することが知られており,膜電位変化の良い指標であると共に,細胞内の生化学的な状態を示す良い指標でもある.そこで,神経活動の時空間特性を計測・解析するための,カルシウムイメージングシステムを確立した (図 2.2.6.1).本システムは高速冷却 CCD と高速波長切り替え装置により構成されており,従来のイメージングシステムと比べ高速かつ高感度な計測が可能である.また,カルシウムイメージングを行うためには,図2.2.6.1 カルシウムイメージングシステム.高速冷却 CCD (Cooled-CCD) と高速波長切替装置 (filter changer) が顕微鏡に取り付けてある.28

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